中医学の「脾」って深いんです。
2026年04月01日 18:26
中医学は身体の機能を5つの気の運動様式である「木火土金水」で認識しています。このうち、「土」である「脾」の働きが最も重要で、治療の基本は脾胃(消化器系)を立て直すことにあります。脾が中心となり、他の肝(木)、心(火)、肺(金)、腎(水)を養っている、自然界において大地(土)がすべての生命を育んでいるように、脾(土)が他の四臓を養っているのです。
脾とは、解剖学的な脾臓だけでなく胃腸や膵臓、肝臓、胆嚢の消化吸収・栄養代謝機能に関係する内臓のはたらきといえます。春(木)夏(火)秋(金)冬(水)の四季の季節の変わり目を「土用」といいますが、季節の変わり目は天気も悪く、胃腸の変調を起こさないように注意する必要があります。腸が自律神経を安定させる要となることは、自律神経の専門医が説明しているところですが、まさに、季節の変わり目は自律神経の変調を起こしやすい時期で、胃腸の健康状態が大きく関わります。
腸から90%以上のセロトニンが生成され、それは、腸の蠕動を刺激しますし、腸内細菌がセロトニンの前駆物質に変換し、脳内でセロトニンが合成されるのを促す役割があります。セロトニンは精神の安定に欠かせないものですが、脾が「心」(心臓と精神活動)を助ける作用を示しています。中医学理論で脾は「思い」や「意識を一点に集中する」作用があることを裏付けています。
悩み事で気詰まりになると、脳が腸にセロトニンの産生を促します。セロトニンで気分が楽になるからです。しかし、腸にセロトニンが過剰になると蠕動が過剰になり下痢を起こしやすくなります。逆にセロトニン不足は蠕動が不足して便秘になります。うつや不登校などのお客様を施術する際に、腸の異常を抱えているケースが多数あります。2000年以上前の「黄帝内経」では脾胃の疾患で精神疾患が多数紹介され、「腹が立つ」「腹黒い」などと、こころと胃腸を結びつける言葉が多数あるのは、漢方や中医学の治療経験から由来するものでしょう。
腸や皮膚などの健康は多数の微生物と共生することで成り立っているのですが、腸内細菌の過半は土壌菌由来だそうです。これも「土」と関係します。土には適度な水分が必要ですが、水浸しになっても、熱で乾燥しても大変なことになります。ドロドロに「腐熟」した飲食物は胃腸が健康であれば、栄養と水分をしっかり取り込み循環させますが、不調だと逆に栄養物と水が毒素となって身体全体を犯します。

なぜ、こうした消化吸収機能を「脾」としたのでしょうか。古代人の認識が間違っていたのでしょうか?
脾臓は腸から吸収した栄養を静脈(門脈)から肝臓に送る際に、静脈の流れをポンプのように促す働きがあります。また、劣化した赤血球をを処分して肝臓に送ります。末端の毛細血管は赤血球が変形しながらくぐり抜けていくことがわかっていますが、劣化した赤血球は通過しにくくなります。皮膚表面が血行不良と汚れた体液で黄色くすんでくることも脾の不調からくる症状です。また、脾臓は血小板を蓄えて、調節していますが、セロトニンはこの血小板に集められ、止血効果を高めています。脾臓の病変は血小板の減少や過剰として現れ、血行不良や異常な出血をおこします。中医学では「統血を主る」のも脾の重要な機能です。婦人科系の血の道症の改善にも脾を立て直すことが必要となります。
つまり、中医学の先人は、胃腸の消化活動を機械的表面的に捉えるのではなく、血の生成や循環、内臓・肉体と精神をつなげる(脳腸相関)ものとして脾臓や腸を一体のものとして理解していたことになると思います。つまり、脾臓のはたらきを解剖学的に分かったうえで、「土」の作用を「脾」とした可能性が高いです。それは、現代の科学的、技術的な分析ではなく、数千年の長い治療経験から得た知識であることがすごいところです。
近年、科学技術や社会の歩みは加速度的に進んでいますので、近代以前の人類の営みは何かゆっくり、のんびりした印象、科学とは無縁なものとの印象をを持ってしまいますが、本当は古代人も現代人と同じ密度で考え、実践していたことは間違いないと思います。人類が様々な問題解決を行う時、これまでの長い年月で培ってきた知恵を生かすことは、大変重要なことではないでしょうか?近年の拙速な物事の決定や社会の動きを見ると、その思いが強くなります。地(土)に足がついていない動きに恐怖さえ感じます。人類は科学技術の力で純粋な「土」さえ作ることができないのですから、もっと自然に謙虚になるべきだと、教えられます。
胃、肝胆、腎膀胱の経絡は下肢に通じます。脚の力を維持することが消化器系を中心とした内臓の働きを高めることは筋膜論的にも明らかです。 腸は脚と脳につながり、精神と肉体の軸を形成するのです。